|| 本当に伊藤熹朔賞はすごい目標でした。そして「受賞者」というプレッシャーの中で新しいものを考え出したい…と自分の中で戦いながらも気持ちの浮き沈みはありましたね。
ーーーではここからは舞台美術家としての柴田さんご自身の事を伺いたいと思います。
普段どのように作品にアプローチしますか?
柴田 人と場合にもよると思います。様子を見ながらどのタイミングで初めのプランだそうかなとかあります。大きな仕事になるとスケジュール感や進め方も違うので難しいですね。
大体の場合、色付きの模型を最終的に作るのが、まず一つの目標というか到達点なんですけど…
ーーー柴田さんの場合、それから更に自分で作製するということになりますね。
柴田 そうですね。結局自分で作れるものしかデザイン出来ないんで、でも何か新しいものを毎回考えたいなとも思います。そうなると製作技術も上げていかないといけないし、なかなか思い通りにいかないことや、自分のところで出来る規模やスケジュールではあまり向いてないこともありますね。
ーーーこちらの大道具会社は?
柴田 何社かよくお願いをする大道具会社さんもあります。
それから僕みたいに美術やりながら作ってる方もいらっしゃいますが、皆さん1人で、2人でとかが多いですね。
ーーー職業病だな…と、つい思ってしまう事はありますか?
柴田 手帳が真っ黒でないと嫌で。休みの日に休めない…というか、常になんかしてないとソワソワしてしまいます。
ーーーなるほど。深刻なワーカホリック症状ですね(笑)。くれぐれも無理はしないで下さいね。
ーーー続いて好きなものを伺いたいんですけど、色とか数字、絵などありますか?またそういうものはデザインに影響を与えていますか?
柴田 色は…ブルー系が好きですね。青緑とか大好きです。若い頃は特に「またブルー使ってる」ってよく言われましたし。それと茶系とかも同じ感じになりやすいですね。自分で色作るじゃないですか?混ぜ癖というか。気がついたら同じになっていて。もちろん、自分の持ってない色を使わなあかんな、と抗う時もありますね。
数字は3、7、5、1とか奇数が好きです。3の倍数とか、30分の1が好きなんで…
ーーー他には?
柴田 絵画ですとエッシャーが好きです。パウル・クレーも色が好きですね。
ーーーあの表にあるピンクの象の横にあるロボットみたいなものとか「麦踏みクーツェ」の美術とか遊び心が出てますよね。
柴田 あれですか(笑)。あれはジャンジャン横丁の商店街のキャラクターなんです。屋台を作った時の書割の残りで…。緻密なごちゃっとした感じの絵や、どんどん描き込んでいくような絵は好きです。
ーーーでもその一方で iaku作品のような無駄の一切ない機能美の美術もされてますね。
柴田 抽象的な作品ですね。ちゃんと芝居にもあっていて、うまく使ってくれていましたし。
あと映画はよく観てました、ジブリとか好きですね。世界観のある美術が好きで。
ーーーそうなんですね。他には?
柴田 やっぱり昔は(池田)ともゆきさんの影響が大きくて。引き算が上手だと思ってみていました。最小限のものできっちり説明されている空間というか。
ーーー池田さんを大絶賛ですね。では最近とても楽しかった事などありますか?
柴田 嬉しかったことなんですけど。今大阪芸大で教えているんですけど、3回生が20人くらいで同じ台本でプランを考えるという学生の授業発表公演があって、みんなとても苦労してるんですけど…
例えば「こうやってこういう風に、考え方変えたらいいちゃうん。」などアドバイスをして、みんな何枚も何枚も描き直して頑張っているんですけど、そのうちの1人が試行錯誤して作った模型が、演出の先生にデザインを認められて「これいいやん、コレでやろうや!」って決まった瞬間にうるっときて。若い子らが頑張って苦労してやってるのがね。
ーーー感動しますね。もしかして一緒にされてる演出家の方も年下が多くなって来てますか?
柴田 いえ、まだ年上の方が多いですね。年下は1、2人くらいしかいないですね。
ーーーそうですか。意外でした。では最近後悔したこと・嫌だなと思ったことは?
柴田 最近思うことは…。オリジナル作品が多くて、文学、演劇史上の名作とあまり縁がなくて。機会があればやってみたいです。
ーーー今は色々と関わりはあるんじゃないですか?
柴田 今は卒業制作で、学生が毎年色んな戯曲を選んできてデザインしているのが、転換のある多幕物のお芝居やミュージカルなんですが、それを評価しないといけないのですごく台本を読まないといけない状況です。その中にいくつかーーー例えばアーサー・ミラーの「セールスマンの死」とか、「回転木馬」とかを読んでて、いいなあと。もっと早くに読んどいたら良かったと思います。
ーーーまだ全然遅くないと思います。興味本位ですが、ストレス対処法などありますか?
柴田 お酒です…(笑)
ーーー(笑)。では仕事を楽しむための何かコツはありますか?デザインして実際に作って…と常に止まってない感じですが。
柴田 確かにそう思われるんですが、逆にデザインばっかりしてたら嫌になってたと思うんですよ。デザインもするし、模型も作るし、実際に道具も作るし、色んなことを満遍なくやってるんで、飽きないっていうのがあります。
ーーー確かに変化ある活動ですね。大切にしているアイテムなどありますか?
柴田 …ぱっと思い浮かばないですけど、筆箱にはカッターなどの作業ができるものを入れていますね。あと、三角定規が好きです。このステッドラーの2枚組みなんですけど、模型作るのにも図面ひくのにもよく使っていますね。方眼でメモリも入っていますし、分度器もついているので重宝してます。
大学生の時に阪本雅信先生が使われていて、教えていただきました。
ーーー1つ壊れたらまた新しいものを買うという…
柴田 汚れて傷ができて目盛が見えにくくなったら買い換えて、を重ねていっぱいたまってきました。
ーーーすごいですね。デザインのアイディアはどういう時に浮かびますか?
柴田 浮かばない時はまったく浮かばないので、なにか違うことを考えたりしたりとか。違うものと違うものを結びつけて、考え方を変えよう変えようするんですけど… 結局巡り巡って元に戻って来たりとか。そういったものの繰り返しですよね。
ーーーわかります。最近、自身でこれは!と思った考え方あったりしましたか?
柴田 新鮮な考え方ですか…1階の作業場で実際のモノと対峙してると、デザインした時とは違う素材の見方を発見したりしますね。それから学生と喋っていても面白いですね。計算されて考えた答えでデザインするというわけでなく、まだまったく作ることのわからない学生が自由にデザインしてるんで、計算できない学生が描いている発想だけのデザインアイディアは面白いですね。
ーーーデザインスキルを上げるためにしていることはありますか?
柴田 ずっと(図面が)手書きやったんですよ。でも必要に迫られて2年前くらいからをパソコンで描くようになりました(汗)。今のアトリエの助手はもともと舞台をやりたいということで、先輩の紹介で来てくれました。もう3年くらいになります。助手がよくできるのでわからないことは教えてもらっています。
ーーーこれまでで印象に残っている作品はありますか?
柴田 伊藤熹朔賞いただいた作品は全部すごく印象に残ってますね。
ーーー模範的な解答、ありがとうございます(笑)。
柴田 いえ、本当に伊藤熹朔賞はすごい目標でした。 大学1年生の時に板坂先生が本賞受賞されていて、そういう賞があると初めて知ったんですよ。すごい先生なんやと思って。そこから協会に入会して、その年に新人賞をいただいて…
受賞したことは嬉しいんですけど、頂いたことによって「受賞者」というプレッシャーも感じながら、もっと頑張らないとなって。その後は毎年出しては落ちて、落ちては出して…。
8年経って奨励賞を頂き、その後また8年後に本賞を頂いたんですけど、でもやっぱり受賞した次の年、その次の年はなんか自分の中で落ちてる感じはありました。
ーーーそうなんですか?
柴田 はい。そんな中で毎作品毎作品頑張らなあかんし、新しいものを考え出したい…と自分の中で戦いながらも気持ちの浮き沈みはありましたね。
ーーーなるほど。他の人にはわからない葛藤はあるんですね。ちなみに受賞を機に東京に行くことなどは考えたりしましたか?
柴田 当時は目の前の仕事がすごく面白くて、20代の頃はたくさん夢中になれる現場がまわりにあったので別に東京に行く必要はないと思っていました。東京は呼ばれたら行くところだと思って。
関西から東京に行った方や、その他にも色んな方によく声をかけていただいた時期もあったんですけど、やっぱりタイミングが合わなかったというか、でもこっちも楽しかったので。
ーーー柴田さんは京都のロングラン公演「ギア-GEAR-」もされてますね。
柴田 ギアはもともと道頓堀ZAZAっていう小スペースでやった作品でした。
世界観は、工場という設定は最初から決まっていて、お話を聞いた時に直感的に廃工場の雰囲気のこういう舞台美術がいいんだろうなと感じました。
その工場で女の子のドール(ロボット)を作る製造ラインのイメージで、叩く機械とか型を抜く機械、塗装しているとか5つくらいのセクションがあって、その中をぐるぐる回っているという感じやったと思います。
あまりリアリティは追求してなくて、POPな部分やマンガのような部分もあって、でもうまいことパフォーマンスと雰囲気には合っているかと思います。
ーーー確かにすごく合ってましたね。
柴田 それをリライトしながら色んなところで改変しながらやり続けてたんです、すぐ近所の名村造船所のブラックチェンバーでもやっていました。デザインと製作もやったのでその度に新しいものを追加したり、調整したり。そうこうしてたら、京都のアートコンプレックスでロングラン公演をするという事になって、劇場を客席から何から改装しました。
ーーーこれからもまだ進化しそうですね。柴田さんは更に2019年の上方舞台裏方賞も取られました。
柴田 僕なんかが頂いて良いのか申し訳ない気持ちでした(汗)
ーーー熹朔賞の特別功労賞に近い感じの…
柴田 そうですね。2、3年前でしたでしょうか。「僕でいいんですか?」とお尋ねしたら、頂けるものは頂いておきなさいと言うことで頂戴致しました。
ーーーでは、もうほぼ熹朔賞4冠に近い感じで。
柴田 (笑)
ーーー柴田さんが受賞されることによって、また次の世代の舞台美術の方も評価の対象になるかもしれません。
柴田 そうですね。そうなってくれたら嬉しいです。
ーーーお忙しい中、沢山の興味深いお話をありがとうございました。アトリエは今日もフル稼働ですが、直近のお仕事は?
柴田 実は明日現場で。ミュージカルの仕込みがあります。
ーーー( ! ) 。そんな大変な時に本当にありがとうございました。月並みですが、明日の仕込み頑張ってください。
プロフィール
柴田 隆弘 (しばた たかひろ)
兵庫県出身。大阪芸術大学舞台芸術学科舞台美術コース卒業。
木谷典義氏 大澤裕氏に師事。
関西を中心に様々な劇団の舞台美術プラン製作を手掛ける。
大阪芸術大学舞台芸術学科舞台美術コース 特任准教授
桃園会『どこかの通りを突っ走って』で、第28回伊藤熹朔賞新人賞受賞。
維新派『呼吸機械』、MONO『なるべく派手な服を着る』で、第36回伊藤熹朔賞奨励賞を受賞。
『麦ふみクーツェ』で、第43回伊藤熹朔賞本賞を受賞。
編集後記:
忙しい時にも関わらず、笑顔で楽しくお話ししていただいた柴田さん。ミュージカルの搬入はあいにくの雨だったそうですが、問題なく乗り切ったことと思います。余談ですが、今年の読売演劇大賞上半期の作品賞に iaku の作品が中間選考会でノミネートされてました。美術はもちろん柴田さん。おめでとうございます。これからも関西のみならず東京での精力的な活躍も期待しています!
構成・文・撮影: JATDT広報委員会