―――ここからは少しカジュアルに話を聞きたいと思います。まず好きなものシリーズと題打って、好きな色・形・数字などはありますか?

香坂        ………。あんまり思い浮かばないです。どういう意図ですか?

 

―――例えば、好きな色を自分のデザインに使いがちだとか…ありますか?

香坂        作品に合うと思う色を使い分けるので、あまりそんなことはないですね。

 

―――では好きな空間・場所はありますか?

香坂        ワクワクする場所が好きです。完成された場所よりもこれから何かがおこる予感がするところが好きなので、劇場とか好きです。本番観るよりも好きかもしれない(笑)。

 

―――これは、とんだカミングアウトですね(笑)。

香坂        そうですね。実際、創作過程の方により魅力を感じます。

それから子供の頃の原風景が北海道の広い野山なので、広がりのある空間に惹かれます。

 

―――好きな音楽・作業中に聴いたりするお気に入りの音楽はありますか?

香坂        好きな音楽は特にこだわりはないんですが、例えばラジオである曲が流れてその曲を好きになったらずーっとその曲ばっかり延々聴いてしまうということはしょっちゅうありますね。

 

―――ひとつのことを大切に…ですね。一つ一つの作品に対する愛にあふれている美術家タイプ。

香坂        かもしれません。あまりサッサッと流していくのは好きじゃないので。

 

―――いいですね。最近楽しんだことはありましたか?

                                                                                仕込み風景

香坂        先ほど会場でも言いましたが、20代の若い人たちと一緒に作業したことが楽しかったです。

若いエネルギーをたっぷり吸い取りました(笑)。彼らの名前も、どんなことが得意なのかということも短時間で必死で覚えてチームになっていけたらと思いました。

 

―――では「楽しい」の逆でストレスになった時には何か対処法などありますか?

香坂        私は野山を歩きます。ハイキング程度のにわか登山ですが、気分転換と体を動かすことを兼ねて友人と一緒に行ったりします。

 

―――それは頭を空っぽにするとか?登山中にアイディアが浮かんで来ることってありますか?

香坂        気分転換なので頭を空っぽにするという感じですが、浮かんで来ることもありますね。

 

―――いつも持ち歩いているアイテムなどあったりしますか?

香坂        手ぬぐいです。

 

―――いい趣味をしてますね。

香坂        はい。夏は汗止めに首に掛けて、冬は寒いので首に巻いて。他にも何でもできる万能物です。

可愛いのもいっぱいありますし。

 

―――では皆が聞きたい事だと思いますが、率直にデザインアイディアはどういう時に浮かびますか?

香坂        電車の中が多いですね。一番仕事がはかどります(笑)。

 

―――電車の中で?それは…以外ですね(笑)。雑音や雑踏の中の方が浮かびやすい?

香坂        それもありますが、電車が好きだというのもあります。昔18切符で、よく色んなところに行きまして、年齢を重ねても18切符で(笑)。

 

―――幾つになっても18(笑)。続いてデザインスキルを上げるためにしている(いた)ことは?

香坂        月並みですけどよく美術館とかはいきます。最近ですと石岡瑛子さんの展示会に行きました。素晴らしかったです。

 

―――石岡さんは世界で活躍されてましたね。自分も行きました。

   舞台美術を始めた経緯といいますか、デザイナーとしての原点は?

香坂        もともと絵を描くのは好きでだったので、だったら母と同じ美大の付属中学にと。

 

―――母親と同じ。

香坂        それで高校の時なんですが、邦画にすごくハマりまして。黒澤映画とか。

その頃がちょうど日本映画生誕100周年ということで名画座――銀座のみゆき座・池袋の文芸座――などで連日名画を上映していて、その映画の出演者や監督のトークショーも一緒にあったので足繁く通ってました。

 

―――これはまた…女子高生が渋い趣味ですね。かなり浮いていたんじゃないですか?(笑)

香坂        かもしれません(笑)

そういった趣味もあり、大学卒業後の就職進路を考えた時に映画美術に関係した仕事につきたいと漠然と考えていたんですが、とある機会に演劇のイベントのボランティアに参加しまして――その頃は映画も演劇も似たようなものだと思っていて――それが面白くて演劇の方にも興味が湧いて、それから….ですね。

 

―――それから、演劇の世界に。

香坂        はい。 そして重要なのは、(美術)作家の方々のように独りで創作活動に打ち込むよりもみんなと共に創り上げる過程にも強く惹かれました。

 

―――総合芸術たる所以ですね。そこで道が決まったわけですね。好きで始めても色々と大変だとは思いますが、仕事を楽しむコツは何かありますか?

香坂        マイペースです。別名・「おばさん力」。

 

―――「おばさん力」(笑)

香坂        自分でもよくわかりませんが(笑)、あれこれ心配ばかりするのでなく、できるだけ楽しいことに集中するというスタンスですね。マイペースに。

 

―――良い意味で力まずに仕事に臨まれているということでしょうかね。ではいよいよ最後の質問です。自分の中でこれまでに印象に残っている作品はありますか?それはなぜですか?

香坂        ものすごく一つの一つの作品にどっぷり使ってしまう性格の美術家なので全ての作品が割と気持ち的には印象に残ってるといえば残っていますが…、あえて挙げるならデビュー作でしょうか?20年ほど前の「劇」小劇場での作品です。

 

―――デビュー作ですか。

香坂        規模は大きくはないんですが、20代の頃の初めて取り組んだ仕事が自分の中では自信にも繋がりました。

 ―――劇団とのお仕事ですか?それともプロデュース公演?

香坂        劇団とプロデュース公演になります。2団体連続公演の企画でした。

 

―――2団体と!?変則的な企画ですね。

香坂        はい。一応、基本は共通のベースになる美術があり、多少の飾り変えというか色を変えたりと変化があるものでした。

 

―――なるほど。その2団体というのは?

香坂        三田村組とONEOR8です。全てが初めてづくしだったんですが、そこから他の人たちとの関係も広がり、ありがたいことに20年経った今でも良い縁が続いていて感謝してます。

 

―――それは素晴らしいですね。きっと香坂さん自身の人柄の賜物だと思いますし、良いデザイン・取組みをしてきた結果だと思います。

今日はお忙しいところ本当にありがとうございました。これからも「おばさん力」を駆使して頑張ってください(笑)。

 構成・文・撮影: JATDT広報委員会

舞台裏探訪 いかがでしたでしょうか?

今後、第2弾・第3弾と様々な舞台裏に行って興味深い話をお届けしたいと思います。