新しくスタートするこちらの企画では、当協会員の活動にもっとスポットライトを当てることを目的に、面白そうな活動を探してその舞台裏のお話を皆さんに不定期で届けていきたいと思います。

vol. 1    香坂奈奈(こうさか なな) 「みんなのリトル高円寺」 の 空間デザイン(前編)

06.15.2021

毎年 GW の時期になると「座・高円寺」の景色は一変してしまう。

みんなのリトル高円寺――誰でも自由に参加できる座・高円寺のイベントの開催。その最終日に会場に訪れました。あいにくの雨でしたが、会場はすでに満員(コロナ禍で人数制限あり)になるほどの盛況ぶり。歓声とともに元気に走り回ったり、もくもくと作業に没頭する子供達と彼らを見守る大人たちの姿が至るところに見られます。

舞台裏探訪(BACKSTAGE VISIT )の第 1 回目は、すでに GW の高円寺の風物詩とも言える「みんなのリトル高円寺」の空間デザインを担当した舞台美術家の香坂奈奈さんを訪れました。

わざわざ会場まで出向いて案内してくださった香坂さんがどうのようにこのイベントをとらえ、空間を創り上げていったのか話を聞きたいと思います。

インタビュー: 座・高円寺にて( 05.06.2021 )

 

会場入り口で出迎えてくれる香坂さん

―――今日はわざわざご案内ありがとうございます。

香坂        こちこそ。ようこそリトル高円寺へ。

 

―――まず、簡単にリトル高円寺とはどのようなイベントなのでしょうか?

香坂        簡単に言うと「劇場にできた架空の町」です。毎年テーマを決めてそのテーマに沿って空間をデザインしていくのですが、今回のテーマは「世界はひとりのイマジンだった!?」です。

 

―――「イマジン」? ですか。

香坂        この座・高円寺に住んでいる見えない架空の生き物「イマジン」が去年みんなに会えなくて元気をなくしていて(※昨年はコロナ禍で中止) 、来場したみんなでイマジンを元気にしていこうというテーマです。

子供達の持っている楽しい記憶やイマジネーション、そういった気持ちを込めて作ったものや遊びのエネルギーをイマジンに届けて、目覚めさせて元の楽しい劇場にしてもらおうとプログラムデザインチーム(演出)のお二人と考えました。

 

―――なるほど。架空の生き物の名前なのですね。

受付と入り口
入り口
入り口(中)
カミカミ郵便局 ポスト
コロコロおか
入り口裏
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‖‖  自分たちスタッフだけで完結せずに子供達が作ってくれたものが会場を完成させていく。

―――ではお邪魔します。

香坂        はい、こちらをくぐってください。

(行く手にそびえ立つピンクのドーナツらしきもの。真ん中の穴をくぐると白い物体が並んで、表面には紙がたくさん付着して、物体のひとつは銀紙で包まれている。)

 

―――これは会場の入り口ですね。

香坂        はい、そうです。イマジンの口です。ここから会場に入っていくようになっていて、歯・のど…と繋がって行きます。

 

―――確かに子供目線の低い姿勢をとると唇・歯・喉…と口の中の絵がバランスよく浮かび上がってきますね。

香坂        一旦会場 (=体内) に入ると、そこは体の器官だったり意識内だったりで…それぞれのエリアでイマジンに元気になってもらうための遊びや工作などが行われています。

例えばここでは活動していないイマジンの歯にコトバ (=ハガキ) が詰まっていて、その奥のアーチでは昨日のどが腫れてきたという設定で、スースーストロー (画用紙の筒) からトローチの花を作って飾ってもらい、のどを潤ませてもらっています。

 

―――ハガキや画用紙などのどこにでもある身の回りのものを使って…

香坂        そうです。そうして来場した子供たちが画用紙に描いていったものや作ったものが増えていって徐々にイマジンにも元気になっていってもらうゾ、と。

 

―――先ほど言ってたテーマですね。

香坂        はい。そしてハガキは日替わりの色んなお題に沿って言葉や絵などを書いた後、こちらの郵便屋さんのエリアで投函してもらいます。通称カミカミ郵便局です。喉はスースーアーチ

 

―――水色の郵便ポスト!おしゃれですね!タイトルも。

香坂        子供たちは〇〇屋さんとか大好きじゃないですか。ハガキも郵便屋さんに違うエリアに届けてもらってエリア同士を繋いでいく!という考えはいいなと思いました。

自分たちスタッフが作ったものだけで完結せずに子供達が作って加えていってくれたものが合わさって会場を完成させていく。

 

―――素晴らしい。入り口ですでに目を奪われます。となりのこれはすべり台ですね。

 香坂        ええ、コロコロおかです。低学年の子も体を使って遊べる…ということも一つの狙いで。

 

―――確かに見るだけなくて遊べるっていう体験は子供には欠かせませんね。こちらの楽器は?

(すべり台に行く通路に楽器が飾ってあります)

香坂        このイベントの前に作戦会議というワークショップがあり、参加した子供達に楽器を作ってもらいました。自分の作ったものが飾られているのを見ることは当人達にとっても嬉しいことですし、楽器を鳴らすのも五感を使った気軽な体のアトラクションの一つなので、思い思いに鳴らしながらアップダウンのある道を歩いて行くのも楽しいかと。

 

―――なるほど。色々なことを想像しながら創りこんでますね。

香坂        すべり台一つで、子供たちがそれぞれどの素材・形がすべりやすいのか考えたり、どんな姿勢ですべるのが楽しいか日々研究して遊んでくれました。

 

―――遊ぶ側も研究熱心になるイベントですね。それからワークショップもされたのですね。

香坂        2回行いましたが、その内の1回で夢の中のイマジンをイメージするきっかけとして、子供自身の人型キャンバスに夢の中の自分をイメージして描いてもらいました。結構悩むかなーと思ったんですけど(笑)、意外とみんなすぐに取り掛かって…子供の想像力ってすごいなーと思いました。

 

―――すごいですね。ちなみこれは…?! 何ですか?

(会場の中心部空中に巨大な構造物が吊られています)

香坂        これはあちらのアゲアゲの木から吊り上げられるカプセルを転がす空中レーンのナガナガ河です。

 

―――ピタゴラスイッチのようなものに見えますが…

香坂        (笑)。みんなが好きなピタゴラはワクワクするかなと計画しましたが、実際に仕込む段階になった時はカプセルが何個流してもずっと止まらないように微妙な細工をするのが難しくて…。仕込みスタッフに「もうそのくらいで…」と諦めて言ったりしたんですが、結構ハマってくれて最後まで一生懸命に調整してくれました。

 

―――デザイナーとして、嬉しい「してやったり」ですね。

香坂        他にも色々と仕掛けがあって、例えばあそこの部分が逆勾配になっていて子供達がカプセルの入った台車をロープで引っ張ることによって球が前に進んで行く様になってるんですけど、「イマジンに届けるにはみんなの手助けが必要だよ」って呼びかけて子供達に手伝ってもらうという…参加型になってるんです。

 

―――なるほど。参加する…大事ですね。しかも、ストーリーがあると感情移入もしやすい。

香坂        確かにそうですね。周りで観ている人たちも「頑張れ!頑張れ!」って声掛けしてくれて、こちらの予想していなかった一体感が生まれたりしました。

 

―――すごいですね。